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朝食を食べ終え、召し使いが買ってきた小説を読む。
暇だろうと思って本を買ってきてくれる召し使いなりの優しさが明菜は嬉しかった。
しばらく小説を読んでいたら、サラッと風が部屋に入ってきた。
「あれ?窓閉め忘れてたのかな?」
カーテンを開けるついでに窓を閉めようと手を差しのべた明菜はその場で動きを止める。
「え…?」
一本の桜の木に普段は…否、絶対あり得ない光景があったからだ。
「だ、れ…?」
サラッと風になびかせられる長く紅い髪…かっこいいほどに整えられた顔立ちの明菜とたぶん同い年であろう青年が木の枝に座り木の柱に背を預け眠っていたのだ。
「あ、あの!」
あ…と明菜は後悔する。眠っている人の邪魔になると思ったからだ。だが、久しぶりの外の人間は明菜に感動を感じさせた。
青年はゆっくりと目を開け、明菜を見ると黙ったまま明菜を見つめている。
「こんなところで寝ていたら風邪引きますよ?」
「……………」
「どこから来たんですか?名前は何ておっしゃるんですか?」
「…………お前」
「え?僕は明菜って言います。」
「…外にでたいか?」
「…ぇ…?」
図星をつかれたような質問に明菜は言葉がつまる。
「あ…その、なんで…?」
「別に。」
青年は木から降りると、明菜に背を向け歩きだす。
「あ、あの!」
明菜の声に青年は立ち止まるが、こちらを向こうとしない。
明菜はそれでも構わず話す。
「明日も、ここに来ますか?僕、楽しみにしてます。」
青年は、黙ったまましばらくそこに立ち上まっていたが明菜がもう少し話しをしようかと口を開いた瞬間どこかへ消えてしまった…
「あ…」
少し寂しい気持ちになったが、今までにない楽しさと嬉しさが明菜の心を満たしていた。
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