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19 饅頭
…――今、この部屋には、無残にも首が切り落とされてしまった女の死体がある。
愛して止まなかった彼女のなれはて。
「そこまでだ。両手を上げて膝をつけ」
警官が乱入してくる。
俺が通報しておいた。
彼女の首を切り落とし殺してしまったのだから。
死体。……いや、それを死体と表現するにはあまりにも悲しい。俺の片割れ。命の欠片。いつでも一緒だった。寝る時も風呂に入る時も俺達は一心同体だった。お互い愛し合っていたと彼女を殺した今でも心の底から信じて止まない。
いや、だからこそ殺した。殺してしまったのだ。
「……?」
警官が部屋を見渡しから口角を下げて困惑する。
ハハハ。
じゃ、何故に、殺してしまったのか?
かいつまんで話そう。彼女は、とても優しく、そして俺だけを見ていてくれた。でも俺は出来心で、他の女とファースト・キスをしてしまった。ファースト・キスは彼女とと決めていたのにだ。ただ、その時に悟ってしまったのだ。
俺は、呪われているとも言える束縛でがんじがらめにされていたという事実にだ。
どうしてそう思ったのかは省こう。でもそう思ってしまった俺は……、
どうしょうなく彼女が疎まく思えた。
だから殺してしまったというわけだ。
ただ。
殺した後、気づいた。
俺が生きていく為には、その呪詛ともいえるような愛が必要不可欠だったのだと。
「あの。本件を通報されたのはあなたですよね?」
意味が分からないと、素っ頓狂な声を出す警官。
「はい。俺です。俺が首を切り彼女を殺してしまったんです。今は後悔しています」
「……」
「どうしても呪われた束縛から逃げ出したかった。だから。でも今は後悔してます」
「……」
「俺を逮捕して下さい」
乾いた笑い声をあげて天を仰ぐ。泣き出したい気分にもなる。
「……自分勝手ですよね。分かってます。もう彼女は還ってこない。罪を償います」
俺は、観念している。
もう後戻りはできないのだと理解していたから。
「あの。つかぬ事をお聞きしますがいいですか?」
静かに口を開く警官。
「はい」
「女の首を切り落として殺したんですよね? で、その死体は、どこにあります?」
そうか。彼女の亡骸が彼には分からないんだな。
「あそこですよ。ほら、あの机の上です。そこからも見えるでしょ。無残にもバラバラな肢体を晒す彼女のあらわな姿が。首から上はトイレに流しました。フフフ」
そこにはなんと……。
無残にも首が切り落とされた有名アニメのフィギアがあった。
「……逮捕して下さい」
「ああ、そうですか。大変申し上げにくいですが、本件は警察ではなくて病院の方が適切です。きちんと対応してくれるはずですよ。では本官は忙しいので、これで」
と警官は帽子のツバをそっと触り帰っていった。
嗚呼、ゆっくりしていってねと言っても無駄か。
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