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25 女性と男性
…――いや、そんな場合じゃないだろう。
俺は、そう思う。
今し方、読了した小説の書き方に書いてあったテクニック。女性が女性を見る時はどんな化粧品を使っているのだかとか、どんな服を着ているのだとかを気にするらしい。逆に男性が女性を見る時、容姿やヒップ、バストなどを確認するらしい。
なんとなく分からなくもない。
ただ思うのだよ。
……いや、そんな場合じゃないだろうと。
ここに一つの小説があるのだ。
主人公は女性だ。
*****
彼女は、微笑む。
アルカイックスマイル。そんな彼女はとても煌びやかで可愛らしい服を着ている。スカート部分はトレンドライクなミディ丈。ボリューム感があるギャザーが可愛らしい。リップはレブロンのカラーバーストだろうか、鮮やかな発色と潤いが半端ない。
*****
うん。多分、この書き方に間違いはない。
無難だ。
しかし無難な書き方だとは、思うのだが。
……現況、そんな場合じゃないだろうと思ってしまうのは俺だけじゃないはすだ。
なぜならこのあと男性視点で続きが書かれているのだが、こんな人物なのだから。
*****
彼女の容姿をまとめておこう。
下ぶくれかと思わされるほどのふくよか過ぎる丸顔。瞳は暗黒色で濁っていて妙に主張する長いつけまつげが逆に痛々しい。鼻は潰れていて豚鼻。口もだらしなく開け放たれ下の歯がむき出しになっている。恐怖を感じる。とても怖い。
額にはうっすらとしわがある。
じっと凝視すると今朝、食べた餃子がリバースされそうな顔つき。
それは、もう見事なほどにだ。
キャッチ・アンド・リリース。
俺を殺してくれ。
そう思えてしまい仕方がない。
*****
……というわけなのだ、諸君。
ミディ丈とか、ギャザーとか、リップとか気にしている場合じゃないだろうと思うのは俺だけではなかろう。むしろ餃子の去就や男の生死を気にした方が少しは現実的ではあるまいか。とか考えるのは、やっぱり……、俺自身が男であり、
女性の容姿やヒップ、バストなどを確認するからなのであろうか?
某作家の小説のテクニックで紹介されていたように。
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