29 バイバイゲーム

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29 バイバイゲーム

 …――目指せッ! 夢の100万部。  夢は飽くまで高く持たねばならない。ゆえに100万部を目指すのだ。志は大きくな。俺ならばできる。そう信じている。俺は売れない小説家。それにしても清々しいほど、まったく売れない。しかし、いつかきっと夢を達成できる。必ずな。  そうだ。  俺には秘められた才能があるからな。  きっかけさえあれば倍々ゲーム方式で販売部数が増えていくのだッ!?  2倍、4倍、8倍……、と際限なく増え続けてゆく。そう信じている。 「先生……、ヤバいですよ」  なんだ?  俺の秘められた才能に気づいたのか?  悲しそうな顔をして俺を見つめる担当編集がうなだれる。 「本当にヤバいんです。このままだと」  カカカッ。皆まで言うな。  分かってる。この前、書き下ろしたばかりの書籍の販売部数がヤヴァイんだろう?  遂に来たか。俺の時代が。  今までに記録した販売部数の、2倍、いや、4倍、いやいや、8倍と。  販売部数が倍々ゲームで膨れ上がり続けているんだろう? 「……先生。本当にお願いしますよ。こんな事態は我が出版社始まって以来の大問題です。このままでは先生どころか、担当編集である僕もクビになっちゃいます」  ほへっ?  いや、ヤバいとは、いい意味ではなく、悪い意味なのか?  クソが。  でも大丈夫だ。大丈夫。何か一つキッカケさえ掴めれば、あとは早いのだからな。  なにせ俺の秘められた才能を考えれば販売部数は倍々ゲームで増えるんだからな。 「先生がデビューしてから出版した書籍の数は3冊。しかも3冊併せての合計販売部数は0です。実売0冊ですよ。0。分かってます? 緊急事態です。あ、頭が痛い」  大丈夫。  大丈夫だ。0冊が2倍になり、0冊。4倍になり0冊。8倍になって……、0冊。  あ……。  どうやら秘められた才能は秘められたまま終わりそうだ。
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