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04 夢を買う
…――宝くじの一等が当たったら。
それは誰しもが思い描く夢物語。誰にも、その夢を壊す権利はない。だがしかし。俺はリアリスト。自慢じゃないが宝くじなど買った経験がない。夢は夢なんだよと割り切っている。しかし、友は、そんな夢物語を熱病に冒されたよう熱っぽく語る。
さっきからずっと間抜けな顔を晒して、もし宝くじが当たったらとしつこいのだ。
嗚呼、もう五月蝿くて仕方がない。
耳を塞いでも聞こえてくる。クソ。
「なあなあ。俺、見事、一等当てちゃうかもよ。真面目な話」
「ないな」
こういった調子でアホらしい夢物語を呪禁のよう繰り出してくる。しつこく当たったらの話をしてくる。もうかれこれ一時間以上、同じ話を聞かされている気がする。加えて、つばが飛散して、俺の顔に飛んできている事をやつは理解しているのか。
心底うんざりだ。なぁ、頼む、もう勘弁してくれよ。友よ。
一応、顔をしかめたりして、拒絶の意を伝えているのだがやつは気付きもしない。
いや、気づいて無視しているのか、そのどっちかだろうな。
「当たったらよ。車を買って、家を買って、残りは貯金だな」
「だからないと言っているんだが?」
「それともフィリピンにでも移住して一生遊んで暮らすか。フィリピンの物価は一般的にみて日本の三分の一らしいぜ。豪遊して遊びながら暮らしても余るぜ。むふふ」
「だから俺の話を聞いているのか。もしかして耳と脳が腐っちまったのか。宝くじでな。だから宝くじなんて信じられないんだ。とりあえずコツコツ働け、阿呆が」
本当に、なんなんだ。
このキラキラした目の夢見がちなオッさんは。
確かに宝くじは夢を買うという表現がされる。
夢を見るのは個人の自由だ。それを邪魔するのは無粋だとも思う。思うが、小一時間も夢見がちなオッさんの夢物語を聞かされているこっちの身にもなって欲しい。やっぱり脳が腐ったのか。いや、元々、腐っていたのか、まあ、どっちかだろう。
必死で現実を見せようとどれだけ冷たく否定してもずっとこの調子なんだからな。
繰り返すが、もうお前の話は心底うんざりだ。
「ところで今回、お前は宝くじをいくら分くらい買った?」
夢見がちなオッさん笑いながら、聞いてくる。
答える俺も俺だが、それでも、一応、こいつは友だしな。
「お前は阿呆か。俺に聞くか? 俺が買うわけがないだろう。自慢じゃないが、長い人生の中、宝くじを買った経験すらない。俺に聞いたのが間違いだったな」
「そうか」
そういったやつは何故だか満足そうに見える。
「そういうお前は一体いくら分くらい買ったんだよ。ああ、カネをどぶに捨てたな」
「おいおい。俺に聞くか。お前の唯一の友だぜ」
「ウザい。とっとと答えろ。いくら分買った?」
「実はな。ここだけの話。一枚も買っていなんだよ。お前と一緒で生まれて、この方、宝くじなんて買った事がない。買いたいとも思わない。当たり前だろうが」
ほへっ?
「でもよ。なあなあ、一等を当てちゃったらどうする。やっぱりフィリピンで豪遊生活でも目指してみっか。あ、当たってたら、お前にも美味いもんをおごってやるよ」
「……?」
「唯一の友達だしな」
うん。お前の脳は、始めから腐っちゃってたみたいだな。……宝くじは関係なく。
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