第1章

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 里香がにこにこと笑う。カードを目の前に広げると香里が目をキラキラと輝かせながら手を動かす。右から二番目のカードを取って香里が目を再び輝かせる。 「そろったー」  カードを取り出してテーブル中央に置く。それから里香が香里からカードを引き、里香から私がカードを引く。それを何度か繰り返すと最初にカードが無くなったのは里香だった。 「お母さん上がりー」 「えー」  香里が残念そうに頬を膨らませる。私は残り二枚のカードを香里の前に差し出す。一枚はジョーカーで一枚はハートの2だ。 「どっちだと思う?」  うーんと。首をかしげて悩む姿がまた愛らしい。 「こっち!」  香里は右のカードを選び、私の手元にはジョーカーが一枚残った。 「やったー!」  最後のカードをテーブルの中央に置いて両手を挙げて喜ぶ。 「あー。お父さんの負けかー」 「バニラアイスね!」 「お母さんはシャーベットがいいな」 「はいはい。分かりましたよ」  二人の希望を聞いて、私は立ち上がる。玄関まで二人が見送ってくれる。 『いってらっしゃーい』  二人に見送られて玄関を出る。コンビニに向かう途中にある鉄道沿線の道を歩く。コンビニまでは歩いて十五分ほどだ。なるべく早く帰ろうと心に決めて歩いていると、後ろから小走りの足音が聞こえてくる。  振り返ろうとした瞬間、足に衝撃を受けた。 「お父さん」  足元に香里が抱き着いていた。 「香里」 「私も一緒に行く」  香里がにへへと笑いながら言う。少し後ろに里香が笑いながら歩いていた。 「どうしても一緒に行くって聞かなくて」  くすくすと笑いながら言う。 「じゃあ、一緒に行くか!」  香里を抱き上げて肩に乗せる。きゃははと楽しそうに笑う。三人でコンビニに向かって歩く。 心の中にじんわりと浮かんでくる言葉があった。「幸せ」これが私の今の人生を一言で表せる言葉だった。 ガタンガタンと後ろから電車が私たち家族を追い越していく。私は心の奥底がざわざわと騒ぐのを自覚していた。私は確かに幸せだ。でも、本当に幸せでいいのだろうか? と私はいつも自分自身に問いかけ続けなければならない。私は私しかしらない秘密を誰にも話せずにいるのだから。
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