第1章

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 夕方。一日遊んで疲れたのかお風呂に入った香里はすぐにリビングのソファですやすやと眠ってしまっていた。私は香里を起こさないようにゆっくりと抱き上げると寝室に連れていく。香里をベットに寝かせ布団を掛ける。里香も隣に入り込んだ。 「じゃあ、おやすみ」  私は二人に挨拶するとその部屋から出ようとする。仕事の時間が不規則な二人の睡眠を邪魔しないように一人違う寝室を使っているのだ。 「おやすみなさい。愛してるわ。あなた」  にっこりと笑いながら言う里香に私も「ああ、ありがとう。私も愛しているよ」と返す。少し照れくさいが、自分の気持ちをしっかりと相手に伝える。これが私たち夫婦円満の秘訣なのだ。  そっとベットから立ち上がろうとしたとき、右手に違和感を感じて振り向くと、香里がしっかりと私の服の袖をつかんでいた。離そうとしても頑として手を開こうとしない。 「よっぽどお父さんが好きなのね」  くすくすと里香が笑う。 「仕方がない。今日は私もここで寝させてもらおうかな」  言って布団に潜り込む。一瞬、里香の顔がこわばった。 「どうかした?」 「いえ。なんでもない。おやすみなさい」 「ああ。おやすみ」  私は目をつぶる。香里のさらさらの髪が少し頬を撫ででくすぐったかったが、私も疲れていたのだろう。すぐに意識を手放した。  目が覚めたのは夜中の二時頃だった。うめき声と鳴き声で目が覚めたのだ。それは、里香の声だった。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」  それは悲鳴にもにた声だった。何度も何度も頭を掻きむしり体をくねらせていた。私はあまりの光景に大丈夫かと声を掛けようとする。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。あなた達の娘を奪って。許して」
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