ラジオ体操

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 そこで俺が目にしたのは、いつもの朝とは違う異様な光景だった。  人っ子一人いない公民館にラジオ体操の音だけが響いている。その奇妙さの中に立ち尽くしていると、いつものメニューが終了し、音楽が止んだ。  反射的に、首に下げたスタンプカードを手に取る。その時始めて俺は、自分のカードの捺印欄の異常に気づいた。  昨日は休んだから、そこからカードは空白の筈なのに、俺のスタンプカードは、昨日から最終日までがびっしりと赤色のバツ印で埋め尽くされていた。しかも、その状態に呆然と立ち尽くしていると、たまたま通りかかった人が、カードを持って立っている俺に、ラジオ体操は先週の末で終わっていると教えてくれたのだ。  先週末に体操は終わっている? だったら一昨日までのあの光景は何だったのだろう。それに、昨日から×印になったスタンプカードと、さっきの、無人の広場に音だけが響いていたあの状態は?  何もかもが判らないまま、俺は自宅へと帰った。そしてそれきり、もうラジオ体操はやっていないという言葉を信じて、朝、公民館に向かうことはなくなった。  そして、夏休みが終わった九月一日。  町内の至る所で原因不明の食中毒が発生し、何人かのお年寄りが亡くなった。  その人達の何人かは俺も知っている人だが、食中毒になったのはみんな、一緒にラジオ体操に参加してスタンプをもらっていた人達だった。  子供達とは別に捺印されていたスタンプ。あれが何なのかは今だに何一つ判らないけれど、休んだことで参加資格を失くした俺は運がよかったのだろう。  恒例行事だから、きっと来年もラジオ体操はあるだろう。でももう俺は、それに参加することはないだろう。 ラジオ体操…完
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