vain 1

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 それは恐ろしく背徳的な事ではあるけれど。娘の愛菜があの人の娘でない。  結婚が決まったある夜、私たちはそれぞれの友人を集め、街のバーで飲んでいた。  彼の名は浩幸、真面目だけが取り柄のサラリーマン、そして珍しいのだが、敬虔なクリスチャンでもあった。彼の友人が三名、私の友人も三名、まるで合コンのような雰囲気で進んでいたんだけど。  彼の友人の中に伸之がいた。彼はヤンチャだが、陽気で話もうまく、ずっと話の中心にいた。私も、飲めないお酒をかなり飲んでいたと思う。浩幸も仲間に勧められベロベロになるまで酔っていた。いつお開きになったかさえ覚えていない。  そして気がつくと、私は伸之とラブホテルにいた。お互い裸で。私は、取り返しのつかない事をしてしまった罪の意識でそこを飛び出した。マリッジブルーだったと言い訳すれば、都合の良すぎる言い訳だろう。  それから数日後、私たちは予定通り結婚した。結婚とは惚れたはれたでするものではなく、双方の家族、親族を巻き込んでの儀式、契約でもある。あくまでも、希望的で勝手なのだが、横で伸之も寝ていたし、後日、その既成事実を確認した訳ではない。恐らく、伸之にせよ、意識がはっきりしていたとしても、友人の奥さんになる女を寝取ったとなれば、尋常な後悔ではないと思った。お互い秘密を墓まで持って行くしかないのだと。  実際、結婚式の披露宴会場には、伸之の姿があった。そして、いつも通りの笑顔を確認した。あれは、なかった事なのだ、と思いたかった。  しかし、現実とは何て残酷で皮肉なんだろう。私は身籠っている事を知った。そして、何故かは分からないが、間違いなく伸之の子供だという確信もあった。幸いな事に私はA型、浩幸はB型、伸之もB型だった。私の母親はO型、父親はA型、浩幸の母親はO型、父親はB型である。血液型でバレる事はないようだ、DNA検査をすれば駄目だが。顔が違ったら? なんて思っても見たが、私に全く似ていない事もないだろう、いざとなったらなった時だ。
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