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久しぶりに会った友人との飲み会でハメを外したネネは、最終電車になんとか飛び乗り、家に着いた。窓から灯りが漏れており、中で母が帰りの遅い娘に対して怒りを携えて起きていることが手に取るように分かり、ネネは慌てた。どうしたものかと家の裏にまわってみると、カケルが佇んでいるのが見えた。ネネが気づいた瞬間、カケルも振り返り、ギョッとした表情を浮かべている。
「よう、カケル!助かったあ!一緒に家に入ろ~」
姉の千鳥足を目にして、カケルは何故か安心したようだった。急いで駆け寄ってくる。
「平気だよ。母さんもう寝てる」
「え?でも電気点いてるよ」
「オレが点けたの」
そう言ってカケルは玄関を静かに開けて、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。
数日後、カケルは山で仕事をすることに決め、ヒュッテに向かった。
「すべては私の妄想だと思う」
誰もいない裏庭で、ネネは自分に言い聞かせて、井戸の蓋を手に取った。そして中を覗き込む。
暗い井戸の水面に、小さな白い箱が浮かんでいた。箱は三分の一ほど沈んでいる。中にはそれほど重いものは入っていないのだろう。
残念だが、手を伸ばして取れる距離では無かった。
終
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