かわずの寝床

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鵜飼君は天性のフットワークの軽さと、話術で、無駄に生きることを目的としたような僕らに付き合いながら、他のグループにも出入りして、幅広い人脈を作り上げ、はては生徒会副会長に成り上がった。それが僕たちの目も当てられない愚行に繋がったときも、彼は上手くやり過ごした。まぁ、それはまた別の話である。そんな彼が羨ましくもあり、無性に腹が立つようでもあり、複雑な気持ちで彼と接していた。 今も縦横無尽に、言葉と身振りを交えておかみさんを笑わせ、ときには大袈裟に相槌を打ち、寡黙とは何かを体現しているオヤジさんから、多少なりとも言葉を引き出す様は、ある種見ていて清々しくさえある。 「鵜飼君はこっちに戻って来ないのか?」 「俺ですか?そうですねぇ…」 「親父さんの病院を、いずれは継ぐんだろう?」 鵜飼君の職業は医師である。実家は我が故郷の中でも、信頼の厚い鵜飼小児科院だ。 「うーん、実はあまり考えていないんですよねぇ。弟たちも医師になりますから、敢えて俺が跡を継ぐ必要があるのかどうか。それに父の跡を継げるほどの実力は、まだまだ。小児科は難しいですからねぇ。」 「クマ先生は、なんて言っているんだ?」 以外に謙虚な鵜飼君に、僕は尋ねる。 しかし、鵜飼君の二人の弟はまだ高校生のはずだが、医学部への入学は鵜飼君の中では確定しているようだ。医学部というのは、そんなに低いハードルだったか。まさか裏口から失礼します、とはいかないだろう。ならば鵜飼家の遺伝子が優良だと誇示しているのか?そう考えると、やはり謙虚とは言えない。 某先輩の言葉を借りるなら、鼻持ちならないヘチマタワシめ、である。 いや、話がそれてしまった。ちなみにクマ先生とは鵜飼君の父親で、我が町の小児医療の土台を築き上げた豪放磊落を絵に描いたような人物だ。ひょろりとした鵜飼君とは対照的に、まさに熊のような逞しい体格で、がはは、と見た目通りの笑い方をする。僕も幼い頃には、何度も世話になった。ゴツい顔つきの割に、剽軽な性格で、子どもに好かれていた。誰が呼んだかクマ先生という愛称で、親しまれている。
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