かわずの寝床

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「父ですか。あの人は万事、やりたいようにやれ、ですからねぇ。自分が築き上げた物を、無理に子どもに継がせようとは思っていないんですよ。」 「そうかい?」 「そうですよ。誰か、他人であれそこにいる人がやればいいと思っているんですよ。僕もそう思います。僕にゃー荷が重い。」 「でもクマ先生も君が、跡を継ぐなら喜んでくれるんじゃないか。親なら…」 僕の一般論を遮り、鵜飼君は麦酒のおかわりを頼んだ。そして、卓上の端にちょこんと座っている陶器のアマガエルの背中を指先で撫でながら言った。 「僕にはね、子どもの患者は診れないですよねぇ。」 「…なんでさ。鵜飼君なら、誰が相手でも上手くやれるんじゃないか?それとも仕事、上手くいってないのかい」 「はははは、まさか。僕は医局の期待のお星様ですよん。星の王子さまです」 「そんな気色悪い王子さまは願い下げだ」 僕はそう吐き捨てて、唐揚げを頬張った。アツアツの肉汁がじゅあっ、と口の中に広がる。口福とはこんな感じだと思う。 「とにかく、鵜飼君は空気を読むのが抜群に上手いじゃないか」 「それです!」 「ふえ?くぁらはげはい?」 僕は唐揚げを頬張ったまま、唐揚げの皿を差し出した。 「違いますよ、だから空気を読むってやつですよ。君は相変わらず、やれやれですねぇ。おや、これは地鶏ですねぇ」 いや、きっちり食べてるじゃないか。しかも二つも。しかし空気を読むのが上手いのが、何か問題なのだろうか? 僕からすれば、 ぜひ欲しい技能なのだけれど。 「僕にはですね、自分というものがないんですよねぇ。あっちにホイホイ、こっちにホイホイ、上手く要領良く立ち回るだけなんです。空っぽだから、誰とでも上手くやれるんじゃないかと思うわけですよ」 鵜飼君は長い溜息をついて、静かに語り出した。
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