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「本気でやりたいことがあると、恋人っていらなくなるときあるよね」 私の心を汲み取ったのか、彼がそう切り出した。 「ほんと、それ。好きなことをしていたいのに、足枷になるっていうのかな。すごく失礼かもしれないけど、他のことまで考えられないもの」 「たぶん、俺らみたいなのは、縛られるのに向いてないんだよな」 理解をしてほしい相手に、理解されないままお互い過ごしてきたんだろう。彼は休日に野球をしたり、競馬をしたりする。私はバスケをしたり、絵を描いたりする。お互い、本を読んだり映画も観る。飲みに行くことも好きだ。仕事も重要で、周りに口を出されることをお互い嫌っていた。そうして生活をしようとすると、恋人といる時間というのは少なくなってしまって当然だった。それを理解してほしいと願うのは難しいのかもしれない。 私たち二人は、そういう面でよく似ていた。 「人肌が恋しいってあんまり感じたことないんだけどさ、添い寝の幸せってやっぱりあるよね」 ふと、私は思ったことを口にした。それは、彼氏がいるときにだけ感じる幸せ。胸や腕の温もり、その人独特の香りの中で安らかに眠る瞬間。頬を包む、柔らかな肌触り。 「あー、それもわかるな。性欲とは違うんだよね。そもそも、性欲もあんまないし」 男は皆、オオカミだと思っていた。性欲の塊だと。 「そうなの?男の人にしては珍しいね。でも、その気持ちはすごく分かる」 「ほしいのは、ソフレだな」 「そふれ?」 聞きなれない単語に、私は首を傾げる。 「セックスフレンドはセフレじゃん?添い寝フレンドは、ソフレ」 「あぁ、なるほど。ソフレかぁ。ほしいね」 そんな話で意気投合した。それから、こうやってバーで会って都合が合ったときは私の家に彼が来るようになった。彼氏がいた頃は向こうの家にばかり行っていたから、この部屋に人が来ることはほとんどなかった。
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