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“今日も、起きるの早いのな” 彼のその言葉に、意味はあったのだろうか。 少し前までは、先に目を覚ましてもその腕の中から出るのが嫌で身動きができなかった。そのくせ、彼が少しもためらわずに起きて帰ってしまうものだから、苦しさが募った。その寂しさを先に自分で拭いたくて、彼が起きて何かが始まる前に、ベッドから逃げ出さなくてはならなかった。 愚かなものだと思う。 彼の腕の中で、昔の男たちのことを思い出す。その上で、彼には香りも、音楽もちゃんとある。彼に、知り合った頃に教えてもらった曲。彼のいない時間、彼を思い出すものたち。 愚かなのだ。 これを、誰かに話す気などない。秘密というほどのものでもないのかもしれない。それでも、墓に入るその時まで、決して誰にも言うことなどないだろう。心の中で、ただ反芻するためだけのものとして。 記憶には匂いがある。それと、音楽。 彼をこれから縛ることもできるだろうし、離れることもできるだろう。よく分からないこの距離を、保つこともできるかもしれない。流れに身を任せながら、私は自分が息苦しくない道をひたすらに探すのだろう。 そこら中に落ちている、誰かの匂いに包まれながら。
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