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「坂木、外に出られたか?」
辰巳の声だ。少し緊張しているように聞こえた。
「陽が中にいるんだ。すぐに引き返す!」
語尾が震えた。
「バカ、いいから帰ってこい。お前の仕事はそこまでだ。あいつは大丈夫だから」
「どういう事だよ」
「帰ってきたら話す。いいか、余計なことはするな。データを持ってすぐに本部まで戻れ」
それだけ言うと無線は切れた。
あの時の感覚は鮮明に坂木の中に残っていた。自分の体を引き裂いてその場に残していくような。
何とも言えない痛みを伴いながら坂木は本部へ戻り、辰巳に言及した。
けれど辰巳の説明は納得のいくものでは無かった。
「陽には第4支部がもう一つ仕事を依頼した。あの会社のシステムの完全消去だ。2重3重にロックが掛かってるだろうし、バックアップもあるはずだ。サルベージ出来ない状態にするまで少々手間取るかもしれないからデータは坂木、お前に託して先に逃がせと」
「何でそんな勝手なことを! 陽は? あいつはどうなったんだよ!」
今にも掴みかかりそうな勢いで坂木は辰巳ににじり寄った。
「大丈夫だって言ったろ? 熱くなるなよ坂木。ちゃんとルートは支部の方で確保してあるはずだから。そこから先はきっと支部の戦対局があいつを保護してるよ」
―――無事なのか?・・・本当に?
半信半疑で体を固くしたまま、坂木はソファに沈み込んだ。
ここで辰巳に詳細を問いただしても正確な回答は得られないことはよくわかっていた。OEAでは支部ごとに秘密裏に物事が処理される。辰巳がすべてを知っているとは限らないのだ。
坂木の不安を見透かしたように辰巳が冷やかに笑う。
「坂木。そんなことじゃいつか大きなミスをするぞ」
その言葉に苛つき、坂木は座ったまま下から辰巳を睨みつけた。
「うるせーよ! だいたい何で勝手に陽に別の依頼してんだよ!なんで俺に言わない!? 勝手なことすんなよ!」
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