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「インターフェイス越しだが、俺にも確かに聞こえた。あの時、あいつはお前に“ありがとう”って言ったろ?」
坂木は辰巳をじっと見た。
「その言葉だけ忘れずにいろ。それがすべてだ」
辰巳はそれだけ言うと足早にドアを開け、階下へ降りていった。
まぶしい光の中一人取り残された坂木は、ゼンマイの切れた人形のように、しばらくその場に立っていた。
「俺は何も言ってやれなかった。……何も言ってやれなかったんだ」
坂木は手のクロスをそっと胸ポケットに戻すと、その上からギュッと握りしめた。
―――あいつは「ありがとう」と言ってくれたのに。
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