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あの日は久々の「組み」の仕事だった。
『大丈夫。ちゃんと守るから』
潜入の前にそう言って笑った陽を、坂木はいつものようにムスッとして受け流した。
その日の仕事は、ある製薬会社が関与しその実態が隠されて来た、卑劣な人身売組織の初期潜入調査だった。
拠点は寂れた郊外の廃工場で、手間は掛るが、さほど危険を伴う仕事ではないはずだった。
けれどその幾重にも張り巡らせたトラップは、侵入者を見逃しはしなかった。
坂木には見えていた。
警備員の構えた銃が捉えていたのは坂木だった。
けれど、サイレンサー特有の鈍い発砲音と同時に自分に体当たりしてきたのは弾丸ではなかった。
坂木は崩れ落ちる陽の体を支えながら、今まで一度も使ったことのない護身用のコルトを抜いた。
何が起きているのか、理解ができなかった。
ただ、長年の訓練に体が従うのに任せた。
否、理解できなかったのではない。
頭が拒否していたのだ。
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