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足元で動かなくなった青年を、自分がどんなふうに抱きかかえ隣室に運び込んだのかその間の記憶がない。
インターフェイスを通じて辰巳が声を荒げ何かを指示したらしいが、それすらも坂木は全く覚えていなかった。
気が付くと坂木は横たわる青年に縋りつき、ただその名を呼んでいた。
何度も何度も声を震わせて叫び、抱きしめ、涙を流すことしかできなかった。
生気に戻る意識のはざまで、陽の背からあふれ出す血を止めようとするが震える手は何の役にも立たない。
青年がその腕の中で、やっと小さくささやいた言葉にも、冷静さを失った哀れな男は、まともに答えてやることもできなかった。
辰巳が応援を要請して彼らを見つけ出すまで、坂木は青年の名を呼び続けた。
けれど何度名前を呼んでも、もう陽は二度とその瞼を開けることはなかった。
気の狂いそうなほどの絶望と悲しみが坂木を貫き、出口のない闇に閉じ込めた。
そんな日が来るのを覚悟していないわけではなかったのというに。
坂木は赤く染まった手を握りしめ、声を震わせ、陽の体を抱きしめたままいつまでも泣き続けた。
あれから2年が経とうとしている。
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