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後処理をし、移動をし、事務的手続きをし。
抜け殻だった体に時間という悲しい薬がなんとか血肉を与えてくれた。
けれど。
もう決して泣くまいと思っていたのに、あの日を思い出すだけで、あの笑顔を思い出すだけで、あとからあとから涙が溢れてくる。
今でもあのときの感触は坂木の体から離れない。
初めて出会ったときに抱きしめた頼りない細い体は、最後に抱きしめたあの日も同じように儚かった。
自分は、どれほどその華奢な体に頼っていたのか。
どれほど酷いことをしていたのか。
すべてが悔やまれてならなかった。
後悔と悲しみ以外に、何一つ残らなかった。
『ありがとう』
どうしてそのたった一言、苦しい息の下でやっと言ったあいつの最後の言葉に答えてやれなかったのか。
臓腑が煮えたぎるほど腹立たしくて、自分自身を殴りつけたくてたまらなかった。
「ごめんな、陽」
坂木は、もう何千回、何万回言ったかわからない言葉をつぶやいた。
ただ、ただその言葉を届けたかった。
何もしてやれなかった自分にいつも寄り添い、支えてくれた青年に。
「陽……。許してくれなくていい。俺を恨んでくれていい。償えるもんなら何だってしたいのに。なのに、どうすりゃいいのか、いまだに分からないんだ。この馬鹿な男を叱ってほしい。殴り飛ばしてほしい。俺は……俺は……」
坂木は胸のクロスを握りしめながら、突き抜ける青空の下、コンクリートの床に崩れ落ちた。
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