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「なんで陽を……。何であんたは俺と陽の名を知ってるんだ。あんたは……誰だ!」
OEAの人間としての猜疑心からではなかった。
外部の人間に自分たちの素性を知られるなんてあってはならない事だ。
けれど、そのとき坂木の中ではそれは大きな問題ではなかった。
ただ純粋に少女が何故その名を知っているのかが不思議だった。
「あんたは陽を知っているのか?」
坂木の声が掠れた。
少女は真っ直ぐ坂木を見て頷き、そして問いかけた。
「陽という人は、まだ貴方の傍にいますか?」
坂木は言葉を失った。
そしてその残酷な質問をした少女を見つめ返した。
ひっそりと木々で隠されたOEA支部の壁にはツタが絡まり、一見廃墟と見間違うような外観だった。
道行く人もまばらな寂しい郊外の一角。
10月に入ったばかりの午後の乾いた風が二人の頬をかすめて行く。
坂木は手すりほどの高さの車止めにゆっくりと腰を下ろした。少女の、その質問に沈黙で答えながら。
少女もゆっくりと坂木の横に腰掛ける。
白いワンピースがフワリと風にゆれた。
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