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「もう、彼はいないんですね」
少女は坂木ではなく、真っ直ぐ前を向いたまま小さくつぶやいた。
「ああ、いない。……もう、いなくなっちまった」
坂木も真っ直ぐ前を見つめて消え入りそうな声で言った。
「……そう」
「あんたはあいつを知ってるんだな?」
「……」
少女はそっとくちびるを噛んで辛そうな目をした。
「ごめんな」
「……どうして?」
「俺のせいだから」
―――俺は頭がおかしくなってしまったのかも知れない。
初めて会った少女に何を話しているのだろう。
いや、もしかしたら自分の横にいる少女は存在さえしない幻なのかもしれない。
本当にそうだとしても、狂ってしまったのだとしても構わない……。
坂木はそう思った。
今は話したい。誰でもいい。
もう、話してもいいんじゃないか。
そう思った。
「辛かったね」
風に消えそうな優しい声の方を振り向くと、少女は坂木を見つめて泣いていた。
「でも、どうか自分を責めないで」
その涙を何故か坂木は不思議と受け入れた。
この少女は全てを知っている。理由なんかわからない。
ただ、そういうことなんだと思った。
今、願いは叶うのかもしれない。
「俺のせいなんだよ。俺はあいつに言ったんだ。“俺のために生きてくれ”って。だから……」
「だから あの人は生きられたのよ」
少女は優しく言った。
「貴方が彼を救ったのよ?」
「そんなこと無い。そうじゃないんだ。俺がさらって……そして殺した」
「そんなこと言わないで!」
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