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「あいつを自由にしようと思えばできたんだ。組織を抜けさせて普通の生活をさせてやることだって出来たかもしれない。でも、そうさせてやらなかった。考えないようにしていた。自分にまでウソをついていた。本当はこの世界から逃がしたくなかったんだ」
「……坂木さん」
「やっと全て分かったんだ。あいつがいなくなってやっと本当の事が分かったんだ」
「やめて、坂木さん」
坂木は少女の言葉など聞こえていないかのように喋り続けた。
「あいつを手放したくなかった。ずっと自分の側に置いておきたかった。自分だけのモノにしておきたかった。罪を重ねさせて、翼を折って、傷つけて。自分の心を浄化させてくれるあいつを、ただ鎖に繋いで束縛していたんだ! 守ってなんか欲しく無かった。ただ側にいて欲しかった。悪魔は俺の方なんだ。連れ去って、閉じこめて、……殺してしまった」
そこまで叫ぶように話すと坂木は、その場に崩れるように跪き、肩を振るわせて泣き出した。
辺りには地上から切り離されたように誰一人いなかった。
ただ乾いた秋の風が二人の間を通りすぎていく。
少女はゆっくり立ち上がると、嗚咽を漏らし泣いている男を静かに見つめ、そっと歩み寄った。
「愛してたのね」
そして自分もその横に跪くと坂木の背中を優しく抱いて、もう一度つぶやいた。
「たとえそうだとしても、かまわないよ」
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