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どれだけそうしていたのだろう。
背中の温もりは何時しか消えていた。
ハッとして体を起こし辺りを見回したが、さっきの少女の姿は無かった。
ふらつきながら立ち上がり、ぐるりと回ってみたがやはり辺りには人の気配すらない。
わけもなく空を見た。
青く青く、どこまでも深い空。
坂木は目を閉じて両手を空に差し出した。太陽の温かさをその腕で抱きしめるように。
ふわりと暖かい風が坂木の腕の中に入り込み、頬ずりするように優しく触れて空へ還って行った。
坂木にはそんな気がした。
心の中にあった氷がゆっくりと溶けだしていく。
あの時と同じだ。側にいてくれた時と同じ。
心が優しく満たされていく。
「わかったよ。もう泣かないよ。いつまでも心配かけてすまなかった。本当に……本当にありがとうな。陽」
風の抜けていった彼方を見つめて、坂木はようやくほんの少し笑った。
あの日、大切なモノを失ってから、初めての笑顔だった。
初めて言えた、心からの「ありがとう」だった。
◇
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