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マキは坂木の背中に触れながら共に、陽という人間の本当の意味での罪に触れてしまった気がした。
純粋さゆえの。
生まれ落ちたその日から抗う事の出来ない罪。
今、一人の男の夢が終わった。
一人の少年に出会い、翻弄され、そしてふたたび奪われてしまうまでの長い長い白昼夢。
マキはチラリと突き抜ける青い空を見上げた。
まるで慈悲とばかりに二人を出会わせ、そして気まぐれに引き裂き、その悲しい運命に涙を流すふりをして、ひっそりと笑う悪戯な神を空の片隅に見たような気がした。
「だいじょうぶだよ。もう、すべて終わったからね。あの人はきっと大丈夫だから。もうゆっくり眠っていいよ。
……辛かったね、陽」
あの日、木漏れ日の中でそうしたように、マキはその冷たい頬にそっと優しく口づけた。
(Fin)
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