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初めて出会ったのは15年前の冬。
23歳になった坂木が初めて一人で仕事を任された日だった。
ターゲットは麻薬や銃の密売組織の元締め。何人もの未成年者を廃人にし凌辱し、それでも組織力と金にモノを言わせ、法の手から上手く身をかわして来た男。
法で裁く価値もないとOEAはその冬、烙印を押した。
内縁の妻とその連れ子がいるらしいが、その男からとうてい家族と言える扱いは受けてなかったらしい。
「飼われていた」と言ってもいいかもしれない。
深夜、首尾良く坂木はマンションのそのフロアまで忍び込んだ。
下調べではその夜、妻と子は家にいないはずだった。
心臓麻痺に見せかける。坂木には余裕の仕事。
けれどターゲットの寝室のドアを開けた瞬間、坂木は信じられない光景を目にしてしまった。
まだ11、12歳だろうかと思われる少年が薄いシャツ一枚でベッドの横に立っていた。
あどけなさの残る青白い横顔。折れそうに細い体。
華奢なその手に握られたナイフからは真っ赤な血がしたたり落ちていた。
まるで人形のように表情を失ったその視線の先に、ぶよぶよと太った男が仰向けに倒れている。
“しまった!”
瞬時に事態を把握した坂木は少年の後ろをすり抜けて隣の部屋に飛び込んだ。
そこには自ら命を絶ったと思われる女性が赤く染まった床の上に横たわっていた。
“遅すぎたんだ”
坂木は胸を締め付けられるような悲壮感に襲われながら少年の元へ戻った。
「大丈夫。大丈夫だからね。だいじょうぶ」
そればかりをつぶやきながら少年の固まった指先からナイフをもぎ取った。
少年のうつろな大きな瞳はもう、何も見ていなかった。
ナイフを奪われたその手の中には鈍く光るクロスだけが残された。
どうしていいのか分からず、冷え切ったその細い体を抱き寄せると、少年はそのまま崩れ落ちるように意識を失った。
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