第2話 この星の下で

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(1) 薄暗く窓もない地下の一室。 低い木製のテーブルに置かれた灰皿はすでに飽和状態で、タバコの残骸が溢れ出している。 スモークを焚いたように充満する煙の中で、それでも坂木は苛立ちを鎮めようと、二箱目のタバコに手を掛けた。 ガチャリとノックもなしに鉄製のドアが開く。 「何だこの部屋は。燻製にでもなりたいのか、坂木」 低く響く声で言いながら背の高い、強面の黒スーツの男が入ってきた。 後ろにヒョロリとしたメガネの小男を連れている。 最初に入ってきた任侠映画の役者を思わせる風貌のその男はOEA情報部のチーフ、辰巳。もう1人は初めて見る顔だ。 坂木はソファに座ったまま、憮然とした態度で二人を見上げた。 辰巳は坂木の睨むような視線を気にも止めず、事務的に話を切り出した。 「坂木、紹介するよ。新しいお前の相棒、服部だ」 メガネの小男、服部は「よろしく」と言って感情の読めない視線を向けてきた。 ちらりとその男を見た坂木は、すぐに視線を外し、何も言わずにタバコに火を付けた。 “新しいパートナー” 坂木が今一番恐れ、聞きたくない辞令を辰巳は何の躊躇もなくさらりと言ってのける。その冷徹さに坂木は吐き気がした。 時に命を預ける事になるパートナーを、OEAではそう簡単にチェンジなどしない。 そのパートナーの、やむを得ない場合以外には。 「そろそろ諦めて仕事に身を入れたらどうだ? 坂木。もう2週間になるぞ。 余計な事は全部忘れろ。詮索もするな。それもここのルールだ」 ―――諦めろだと? 忘れろだと?  坂木は無意識に拳を握りしめる。 ―――陽を……忘れろと言ったのか? 「また後で次の仕事の連絡が来ると思う。それまでにせいぜい気持ちを切り替えるんだな」 そう言うと辰巳は服部を連れて静かに部屋を出ていった。 ドアが閉じられ、一人残された坂木は握った拳の持っていく場所を見失い、力まかせに机に叩きつけた。 2週間前のあの日。 あの日から坂木の時間は止まっていた。
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