Dissociation

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Dissociation

「はい、法人営業1部、藤崎です。……はい、はい。申し訳ありません、しばらくお待ちください。」 衝立の向こうから、甘えたような声が聞こえる。その主は今年入った契約社員の藤崎佳世子だ。 またクレームかと思いながら、諒は手元のタイピングは止めないまま、その続きに意識を向けた。 「お電話かわりました。遠藤と申します。……はい、それは大変な失礼をいたしました。そちらの書類は破棄していただいて……」 落ち着いた声音で対応を代わったのは遠藤明日香。諒の同期の女性社員だ。同期といっても衝立を隔てていて、特に関わりは無かった。 明日香は電話を終えたらしく、藤崎に事情を聞いているようだった。どうやら送った書類の宛先を誤っていたらしい。取引に関する重要な書類では無かったが、隣の部署から見ても藤崎のミスは多いように思っていた。 ここは外資系の証券会社の本社。個人のリテールだけではなく、法人営業も配置されていた。 入社6年目の明日香の指導は簡潔に終わったようで、部署の皆がまた各々の仕事に意識を戻した。 今度は諒の部署に外線が入る。 「はい、法人営業2部の村上です。」 電話は代表からで、M社の秘書からの外線を転送したいとのことだった。 「わかりました。一度保留にしていいですか?」 諒は衝立の向う側へと、急ぎ気味に歩いて行った。 ロングヘアをまとめた後ろ姿が目に入る。 「遠藤さん!」 腰掛けたまま振り返った彼女は、俺が近づくのを見て椅子から立ち上がった。 「こっちの外線に出てもらえますか?M社の秘書の方から電話が入っていて。」 明日香はすぐに状況を察してくれたようで、諒の後ろについて衝立の横を通りためらうことなく受話器を取った。
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