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「まあまあ、落ち着いて。
ほら、もう着いたから」
オレは道の脇にのびた、木々の間を下る細い小道を、指さした。
あくまで念のためにと、反対の手はポケットの中に忍ばせている物を握りしめる。
伸び放題の雑草の隙間から、道をくだりきった先にある区画がのぞき見える。
そこに行儀よく並ぶのは墓石の群れ。
「お墓……?
ねえ、一体どういうこと??」
「オレの家なんだよ、ここ」
ナミの肩を押すようにして、小道をたどる。
思考停止をしているのだろう、彼女はおとなしくそれに従う。
そこで、動物の息遣いにも似た湿った音がきこえてきた。
「え、なに? お墓になにかいるの?」
断続的に聞こえるそれに、ナミは耳をすませる。
息遣いだけでなく、くぐもった声も混じっている。
オレはもちろん、それがなんであるかは知っている。
音の出所は、一際おおきな墓石の前に縛り上げて転がしてある、二体の人間だ。
男と女。年の頃はちょうどオレとナミぐらいだろう。
オレたちの姿を見ると、猿ぐつわの中で泣きわめきながら、芋虫のように身をくねらせた。
どれだけもがこうと、逃げれるわけはないのに、往生際の悪いことだ。
「ひ、ひとなの?」
ナミの声は掠れて、囁き声のよう。
だけど、オレはそこに、期待と喜びを聞き分けたような気がした。
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