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星河と美笹は聖山高校のあるこの場所が地元だった。大半の生徒は電車通学なので、校門を出ると駅のある右の方向へとどっと流れていく。それとは正反対の方向に家がある星河と美笹は、すぐに列から外れてふたりきりになった。ふたりは閑静な住宅街の中、緩やかな上り坂をゆっくりと歩いて行く。
「ふたりで下校するのって小学校以来ね」
「五年ぶりくらいかなあ」
「あの頃は子供だったけど、私もだいぶ成長したでしょ。ふたりきりだとどう?興奮する?」
美笹は両手で鞄をしとやかに持ちつつも胸を寄せて、上目遣いで星河を見た。
星河は美笹の胸に一瞬視線を吸い寄せられたが、すぐにそらしてげんなりとした。
「胸にイチゴでも入れてんのか?」
「イチゴなんか入れるか!」
美笹が叩こうとしたのを、星河はいち早く察知して、はしゃいで逃げ回った。そしてわざと美笹に追いつかせ、星河はぽかぽか殴られた。
「まあ実際、大人になったよな」
「こんな関係もあと一年くらいかな」
「そうだなあ、大学まで一緒はむずかしいかもしれないな。三人一緒に高校合格だって奇跡だったし」
「そうじゃなくってさ」
どっちかに決めないといけないよねと、美笹はうつむきながらつぶやいた。
「おーい美笹、アイス食おうぜ!」
美笹が顔を上げてみると、駄菓子屋の店先で星河がアイスを物色している。
「こらーっ、人が話してる最中に!」
美笹が星河に駆け寄って手を上げたところへ、星河が絶妙のタイミングで美笹の目の前にアイスを差し出す。
「ほれ、イチゴのアイス。好きだろ」
美笹はぷくっと膨れっ面になって「イチゴはもういいよ!」と星河にアイスを突き返した。
「そうかあ、俺のおごりなのになあ……」
星河がそう言って、残念そうに戻そうとしたアイスを、美笹は慌てて奪い取った。
「がるるーっ」
「食うのかよっ」
駄菓子屋のおばちゃんに代金を支払って、ふたりはアイスを食べながら再び歩き出した。
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