毛玉猫が君を呼ぶ

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 ああ、まったく遅刻だ。いや、まだ急げばギリギリ間に合うかもしれない。雨粒が傘に穴を開けようとばかりに突き当たってくる。雨音がどうにも耳障りで、雨に文句を言いたい気分だ。  とにかく急ごう。  駅に行くには公園を突っ切って行ったほうが早いだろう。吉名一樹は公園へと足を進めた。  そのとき、微かに猫の鳴き声がした気がして立ち止まる。  何気なく見たベンチの下に蹲る小さな毛玉。いや、毛玉ではない。子猫だ。グレーの子猫だ。雨に濡れて寒いのだろうか。少し震えている。今日は少しばかり肌寒いから当然と言えば当然だ。  どうしたものか。  あいつを保護してやったほうがいい。それが正解だ。けど、遅刻するわけにはいかない。大事な会議がある。その会議の資料はこの鞄の中に。朝一でコピーして準備しておかないといけない。なんて段取りの悪い奴だと思うだろう。いつもいつも、そうなんだ。情けない奴だと笑ってくれ。
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