毛玉猫が君を呼ぶ

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 玄関扉をじっと眺め、再び溜め息を吐く。  妻の香奈枝はこんな自分をどう思うだろう。話さなければわからないことだが、絶対になにかあったと気づくだろう。そして、今日の出来事を話すのだろう。責められるだろうか。それとも仕方がないことだと慰めてくれるだろうか。  ゆっくりと玄関扉を開き、「ただいま」といつものように声をかける。だがつい俯いてしまう。 「おかえり」との声が奥から届く。なにも変わりはしない。子猫のこと以外は。 「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな」  そんな言葉に顔を上げてみると、見覚えのある顔が香奈枝の手の中に存在していた。  ずぶ濡れになって鳴いていた子猫じゃないか。 「おい、この子は」  思わず叫んでいた。身体中が温かくなっていくような気がして頬が緩んでいくのを感じた。気のせいだろうが、子猫が光輝いているようにも思えた。地獄から天国に舞い上がっていく心地がする。
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