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あの日、私は自分の部屋の浴室で手首を切った。
真っ赤に染まっていく浴槽の水を眺め、私が死んでいくのを実感していた。
「さあ、もう行こう」
墓の前から動かないわたしを、旦那が優しく呼び掛けてくれる。
「……ええ」
わたしは静かに背を向け、大好きな男性の後を追う。
墓誌には私の名が刻まれている。
だけど、それは私であって、わたしではない。
わたしは姉さんと同じ墓には入らない。
姉さんが愛した、わたしの旦那と同じ墓に入るの。
「……さようなら、姉さん」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で、姉に別れを告げる。
さようなら私。さようなら、もう一人の私。
わたしは手に入れた。欲しかった、姉の全てを――
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