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夏休み最後の日。
街を見下ろせるその場所は、大きな霊園として使われていた。多くの墓石が並ぶ中、結は花を手にしっかりとした足取りで進んでいく。まだ陽は夏のごとく降り注ぎ、まだまだ残暑が厳しかった。それでも汗を拭きつつ、歩いていく。そして結はある墓の前で足を止めた。そこには市川家乃墓と記されていた。
花を添え、線香をあげる。結はしゃがんでそっと手を合わした。
「お姉ちゃん、久しぶり」
こうして結が墓参りに訪れたのは、気持ちの整理が出来たことへの報告だった。姉のもとに一人でやってきたのは、今回が初めてである。いつもは命日やお盆に家族一緒に訪れていたのだが、こうやって一人で来ることは無かった。それはやはり罪悪感、姉に対しての申し訳なさがそうさせていた。でも今は違うとはっきり言える。
「お姉ちゃん、ごめんね。私、お姉ちゃんの気持ちを今まで考えてなかった。私だけ生き残った罪悪感。それに加えて、きっとお姉ちゃんは怒ってるって思っていたんだ。だって、私のせいで死んだんだから。だからずっと、私は生きていちゃダメなんだって勝手に思ってて……
でも、お姉ちゃんがそんなこと思うわけないよね。ずっと一緒に生活していて、あんなに優しいお姉ちゃんだったんだもん。罪悪感に苛まれた私なんか、望んでいなかったよね?そそんな風にするために助けたわけじゃないよね?そうだよね……?
お姉ちゃん、会いたい。会ってもう一度話をしたい。だから私、生きるね。だって死視の力があるんだから、会えないわけじゃない。私はそれを信じて生きていくから」
すてきな笑顔を向ける結。そして再び手を合わせる。姉を想い、そして姉に己の気持ちが届くことを祈って……。
次に目を開けた結は、ふと目の前にある線香の煙を目で追っていた。まるでその煙が自分の気持ちを運んでくれるのではないかと思い、結は煙の行く先を見つめる。その煙の行く先は、きれいな青空であった。その晴れ渡る空に、結は穏やかな笑みを向けたのだった。
夕方近くになり、シキは晩御飯のことを考えていた。今日も何事もなく、だらだら過ごすことができた。毎日こうだったらいいのにとバカなことを考えていると、事務所のドアをノックする音が聞こえた。
ここを訪れるものなど数えるほどしかいない。だから、ノックの主をすぐに想像できた。
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