第一話 見えない毒 ―現在の「死」―

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 こうして何も考えず歩いていたら、いつの間にか大通りに出ていた。すると結の足がふと止まった。あたりを見回して、顔をしかめる。 (この感じ……なんだろう?ちょっと気になる……) 時間を確認すると、まだ学校が始まるまではだいぶある。結は通学路から逸れて、感じる方へと足を向けた。しばらく歩くと、とあるマンションの前にたどり着いた。 結はそこから死の気配を感じ取った。見上げるとかなり高い高層マンションだ。そのマンションの敷地内からは、さらに強い死の気配を感じていたが、入っていいものなのか悩んでいた。するといいタイミングで、目の前から見知った人物が歩いてくるではないか。その人物も、結の姿を見つけ笑顔を浮かべる。 「偶然だね、市川さん。もしかして、死の気配を感じて来たのかな?」 「シキさんこそ、どうしてここに?」 「もちろん仕事だよ。まったく朝早くから、勘弁してほしいよ」  そう言いながら大きな欠伸をするシキ。死神である彼がいるということは、間違いなくここで人が死んでいるのだろう。結はマンションを再び見上げる。こうやって改めて見ると、不気味に見えてくるものだから不思議である。ここでいったい何があったのだろうか。結はシキに尋ねてみた。 「シキさんがいるということは、ここで人が死んだんですね。それで何があったんですか?感じ方からして、あんまりよくない死のような気がするんですけど」 「さすがだね、その通りだよ。昨日の夜に、一人の女性がこのマンションから飛び降りたんだ。自分の部屋からで、遺書も見つかった。それで警察はすぐに自殺と判断し、処理したよ」 「自殺……」 「自殺や突然の事故死は、浮かばれない死者としてこの世にとどまりやすいからね。確認という意味でここに来たんだ。でもまさか、市川さんと鉢合わせするとはね」 「それで、どうなんですか?その女の人は……」  その質問に、シキは困ったような表情を一瞬見せた。どうやらあまりよろしくないらしい。結は神経を研ぎ澄ませるようにして、死の気配が濃い部分に目を向ける。そこはマンションの敷地の一角、きっとそこに女性が落ちたのだろう。だが、結の目には何も映らなかった。するとそのとき、 「私のこと、話してるんですか?」
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