391人が本棚に入れています
本棚に追加
死は、生まれた瞬間からやってくる。
母親のおなかから出てきた赤ん坊は、それは大きな大きな産声を上げる。その声は生まれてきたことへの喜びであり、そして人生の開幕ベルでもある。母親は愛しの我が子を抱きながら、その子の明るい将来を思い描くことだろう。
しかし、明るい将来を歩んだとしても行きつく先はどうしても死である。人間という生物として、それは絶対に避けられないものだ。だが中には、未来では人が死なない世界がきっとやってくる、なんてことを言う人もいるかもしれない。それでも残念ながら、今の時代でそれがやってくることは無いだろう。だから、絶対という言葉は大げさではなく正しい。遅かろうと早かろうと、誰にでも平等に訪れるものであるのは、間違いないのだ。
それでも、生まれた瞬間から死を考えるものはいない。そればかりか、普通に生活していたら、なかなか考えることはないだろう。老いて迫りくる死を自覚するか、病気を患うか、事故で生死をさまようか、身近な人が亡くなるか……そうでもしない限り、なかなか人は死を自覚しない。人生は死に向かって、歩んでいっているというのに。死は平等に、いつ何時訪れるかもわからないというのに。
このように、常に死を考えながら生きるのはあまりにも味気ない。きっと、死を感じ死に怯えていては、楽しめるものも楽しめないだろう。だから人は死について考えないようにするし、また遠ざける。それは自然なことであり、当然のことだ。
それでもやはり忘れないでほしいのだ。
死はいつも、あなたのそばにいるということを……
※ ※ ※
「……お~い。お~い、聞いてるか?結?」
「えっ……?」
窓の外をじっと見ていた少女が、驚いたように振り返った。そして本当に自分が呼ばれたのか、不安そうな顔で向かいに座る親友の顔を見る。それを見た親友は、苦笑いを浮かべながら言う。
「何か悩みでもあるのか?窓の外なんかじっと見て。しかも梅雨の時期で今日も雨だ。見ているだけで気が滅入ってしまう」
「……違うの、明日香。ただ、雨、止まないなって思って……」
最初のコメントを投稿しよう!