391人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと、結と呼ばれた少女は口を閉ざした。そしてまた、窓の外の方に顔を向ける。つられてその親友、明日香も窓の外を見る。しかし写っているのは、雨空のどんよりとした景色に、蛍光灯の光で淡く映る自分たちの姿だけだった。
ここは公立高校の教室。放課後で今は二人以外誰もいない。静かで、窓に当たる雨音しかしない。だが、たったそれだけのことなのに、結は心が暗い水底に沈んでいくような感覚を覚えた。でもそういった感覚を結自身は常に感じていることなので、今日が特別というわけではない。結の心はいつもこんな感じなのだ。彼女の心はいつも雲に覆われ、晴れることは決して無い。そして、いつもいつも死を想っている。死にたい、でも死んではいけない。その二つが、いつもせめぎ合っているのだ。でもそれを表に出してはいけないことも、彼女は十分にわかっているし、知ってもいる。
そんな結は、目の前の親友に視線を戻す。いつもながらかっこいい。彼女の名は、岸本明日香。女の子にしては短めのショートカットに加えて、さばさばした男の子よりも男らしい性格。その上陸上部のエースと言われていて、クラスの人気者である(女子にすごくモテている)
それに比べて結、市川結は普通だ。いや、普通よりも地味かもしれない。黒髪のショートボブに、一応のおしゃれで赤いフレームの眼鏡をしている。でもそれが逆にきつい印象を与え、とっつきにくい人に思われているふしがある。それゆえ、明日香以外に親しいと呼べる友人はいなかった。でも結自身、人見知りするタイプなのでそれはそれでいいと思っている。だから疑問に思うのは、明日香のほうである。どうして私みたいなのと一緒にいるのだろうか。その答えをまだ聞いてはいない。そしてたぶん、聞くことも無いだろう。
「うん?なんか顔についてるか?」
思いのほかじっと見つめていたらしい。それに結は慌てて答える。もちろん明るい声でだ。自分の心の内を、あの暗さを表に出してはいけないから。
「ううん、なんでもないよ。雨、さっきよりも弱くなったから、そろそろ帰ろうかなって」
「ああ、そうだな。今日は雨が強かったから部活は休みだったんだが、自主練しているやつとかいるかもしれないな。ちょっとだけ覗きに行こうかな……結、悪いんだけど……」
最初のコメントを投稿しよう!