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すると急にぞくぞくと鳥肌が立った。結は何かの気配を感じ、後ろを振り返る。見つけたのは、やじ馬の外れにぽつんと立つ一人の男性。泥で汚れたそのスーツは、よく見ると血がべったりと付いている。そして彼自身も、頭から多くの血を流していた。誰も彼の存在に気づいていない。
結は、一目で彼が今回の交通事故の被害者だと悟った。肉体無き姿で現れたということは、もう彼は……しかし、見えたところで結にはどうすることもできない。やりきれない思いを抱えて、また前に視線を戻す。そこで、結はやじ馬の中のある男性の存在に気が付いた。その人物もまた同じように、被害者である彼を見ていたのだった。
(偶然かな?でももしかして、あの人も見えてる……?)
結はじっとその人物を見る。するとその視線に気づいたのか、その彼も結の方に目を向けた。目が合う二人。すると雷が落ちたかのような衝撃が結を襲った。結の頭の中に眠る記憶が、一気に駆け巡る。そして……
(私、あの人を知っている。見たことがある!でも……そんなはずは……)
混乱する結をよそに、その人物は何事もなかったかのように結から目を離し、現場である交差点から離れていった。思わずあっと声が出る。彼がいったいどこに向かうかわからない。正直、結は迷っていた、あの人物を追うかどうかを。追ってどうするか、どう話しかけるのか、自分の記憶が正しければ彼は……そうやって迷っている間にも、彼はどんどん離れていってしまう。もう迷っている暇はなかった。
意を決した結は、彼のあとを追った。着かず離れずの距離を保って、彼の後ろを歩いていく。まるで尾行する刑事みたいだなと思いながらも、見失わないように目を光らせた。そしてなるべく自然に、たまたま方向が同じだとでもいうように結は歩く。彼は、そんな結の存在にまるで気づいていないようで、後ろを全く気にすることなく進んでいった。
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