第一話 見えない毒 ―現在の「死」―

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「家族だから、なんじゃないかな。僕は家族を持ったことがないからわからないけど、特別だよね、家族って。だから、他人よりも損得なしに信頼している分、裏切られたときの絶望は大きいのかもしれない。中沢京子はきっと真実が明らかになっていく中で、気持ちの整理をしていたのかもしれない。そして妹の本心を聞くことで、スッキリとまではいかなくても区切りをつけられたんじゃないかな」  シキはそっと結に微笑みかける。そのねぎらいの笑みは、結にわずかばかりの安らぎを与えた。結もそれに微笑み返す。そしてその安らぎは、結が抱く妄想を吐き出す手助けとなった。 「私も姉を亡くしているんです。生きていたら京子さんと同じ年です。だから偶然にも中沢姉妹と年齢的には同じなんです。そういうわけで、二人の姿を自分たちにも重ねてしまって。もし……もしも姉が生きていたら、私も優子さんと同じ感情を姉に抱くことがあったのかなって……。私の姉も素敵な人でしたから」 「それは本当にバカげてるよ。もしものことを考えるのは無意味だ。答えは出ないし、そもそも答えなんてない。そんなことを考えるぐらいなら、今を大事にするべきだと思う。それに、市川さんはそんな子じゃないよ、絶対にね」  そう言いきったシキは、照れているのか結の方を全く見ずに遠くを見ている。でも、耳がちょっぴり赤くなっているのがおかしかった。  結は二十五歳になった姉に思いをはせる。そして誰もいないはずの横に、そんな姉の姿を思い浮かべてみた。姉はこちらを見て優しく微笑んでくれている。たとえそれが想像でしかなくとも、それだけで結の心は温かくなった。
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