第二話 幻影に囚われて ―未来の「死」―

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        1  暑い。それが、結が外に出て真っ先に抱いた感想だった。平日の今日、もちろん結は学校に向かう。例年よりも早く開けた梅雨は、代わりに暑い夏を持ってきた。じめじめした梅雨も嫌だが、暑い夏もやっぱり好きではない。少し歩いただけで、じわりと汗がにじみ出てくる。 朝からこれでは昼が思いやられる。結は空を見上げ太陽を睨みつける。心の中で悪態をつくが、太陽は気にもしていないようで、熱を帯びた光を地上へと注ぐのに一生懸命のようだった。  結は仕方なく、汗を拭きつつ学校を目指す。通勤するサラリーマンや学生、若い女性なども同じように暑さに耐えながら、各々の目的地を目指している。結はこういう通学時や下校時、さらに人をよく目にする時間帯や場所が苦手だった。それは、人には見えないものが視えるという理由に起因する。  今日も二人ほど目についてしまった。結は死者が見えるだけではなく、死そのものも見える。死は黒い影として目に見え、死期の近い人の背後に現れる。色が濃ければ濃いほどその死期は近い。 結は見えるだけで、この影をどうすることも出来ない。だから影を背負う人を見つけると、やりきれない思いにさいなまれてしまうのだ。昔はそれでかなり悩んだのだが、今はあきらめることを覚えた。運命を変える力は結にはない。あるのはきっと、神様だけなのだ。  暑さに耐え学校に着いたころには、かなりの体力が消耗されていた。結は自分の席になだれ込むように座る。そこでやっと一息つくことができた。明日香はまだ来てないらしく、席は空っぽだった。結は、机に体をつけ体温を下げる。これがまた気持ちいいのだ。しかしすぐに温かくなってしまう……。 結は顔を上げ教室を見回すと、入り口近くの席に、髪の長い女の子が座っているのに気がついた。つややかな黒髪が印象的だが、その子の姿よりも背後のものに視線が集中してしまう。 (あれは死の影……!でもいつもと違うような……いや、でも死の影だよね……?)
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