プロローグ ー死が導く再会ー

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 彼はしばらく大通りを進んでいたが、突如その大通りを外れ、飲み屋が多く夜の繁華街で有名な場所に入っていった。それに対して、結は少しためらいを覚えた。まだ夕方でそこまでの人通りは無いが、制服姿の自分が行くのに違和感はないだろうか。目立つ上に、ここには補導員がいると聞いたことがある。 だが、そんな迷いはすぐに吹き飛んだ。彼に会わなくてはいけない。そんな使命感にも似た思いが結にはあったからだ。補導されたらそのときだ。覚悟を決め、結は自然体を装いながら繁華街へと入る。  そこで結は、彼を尾行しながらこんなことを思った。彼はいったい何者なのだろうか。実際に結は、彼を何度も目撃しているのだ。しかも、いつもよく似たシチュエーション、死に関する場所で。 そして結が一番おかしいと思うのは、彼を最初に目撃したのがたしか八年前なのだ。しかしそれだけでは何がおかしいのかと思うだろう。だが、今日見た彼と八年前の彼が全く同じ姿だと言ったらどうだろうか。もちろん子供の八年と大人の八年は全く違う。それでも八年の間、全く老いもせず同じ姿を保っていられるものだろうか。それほどまでに、彼はあのときと同じ姿だったのだ。  そんな彼は今、飲み屋には目もくれずにすたすたと進んでいっている。結は不安な気持ちを抱きながらも、尾行を続けていた。すると彼は、とある五階建ての雑居ビルの中に入っていった。 結はおそるおそる、そのビルの入口を覗き込む。彼の階段を上がる足音だけが響いていた。とりあえず結は上を見上げ、ビルを観察する。しばらくすると、ビルの三階の一室に明かりが灯った。どうやら彼はそこにいるみたいだ。だがそれがわかっても、結はビルの入口で立ち尽くしたままだった。ビルの中は明かりに乏しく薄暗い。そしてビル自体もかなり古いようで、壁面のヒビがよく目立っている。そのため結にはその入口が、弱きものを喰らう魔物の口のように見え、入ったら二度と帰ってこれないのではないかと錯覚させた。 (死にたいといつも思っているのに、やっぱり恐怖は感じるんだな……でもそれって、なんかバカみたい……)
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