プロローグ ー死が導く再会ー

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 結はそう思っただけで、もうこの恐怖なんてどうでもよくなっていた。そうしてやっとビルの入口に足を踏み入れる。階段を上り、目的の三階を目指す。カンカンと乾いた足音が、不気味さを漂わす。三階に着き見回すと、一つの部屋だけ明かりが灯っていた。ほかの部屋には人がいる気配がまったくない。明かりが灯っているその部屋で、どうやら間違いないようだった。 結はその部屋の前に立つと深呼吸をした。やはり緊張する。ましてや結は初対面の人は苦手だった。それでも勇気を振り絞り、ドアをノックしようとした、その時だった。ドアにはめ込まれたすりガラスに、黒い人影が写った。それに驚いた結は、おもわず半歩後ずさる。ゆっくりとドアが開き始めた。そして顔をのぞかせたのは、あの追いかけていた男性だった。驚き過ぎて顔を引きつらせている結。一方の彼は、対照的に微笑みを浮かべながらこう言った。 「なかなか入ってこないから、ついこっちから開けちゃったよ」  その言葉に結は、彼が自分の尾行に気づいていたことを悟った。すべてわかっていて、結を待っていたのだ。言葉が出ない結を見つめる彼の目には、なんだか余裕が感じられる。 「……あ、あなたは、何者ですか?」  結がようやく絞り出した言葉がそれだった。今、彼女の心臓は爆発しそうなぐらいバクバクしている。そんな緊張感の中、それでも結は目の前に立つ彼を見つめる。年齢は二十代後半ぐらいだろうか。さわやかそうなイケメンで、長めの黒い髪をワックスでオシャレにきめている。そして黒いパーカーに黒いパンツの黒ずくめのコーデ。全身黒なのがちょっと不気味だが、違和感がないところがすごかった。 誰が見ても普通に街にいる若者、そう見える。残念な点をひとつ上げるとしたら、イケメンなのになぜか華が無いということだろうか。 それでも結は、結だけは感じ取っていた、この人は人間ではないと。 「あなたは、人間じゃない……」  結はそう告げた後、とっさに目をそらした。たとえ事実だとしても、やはりこんな発言をするのはどこか気が引ける。しかしそんなことを言われても、この男性は決して微笑みを崩さなかった。まるでそう言われたことを喜んでいるかのようにも見える。そして彼はお返しだというように、結に向かってこう言った。 「君だって、死、視えてるよね?」
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