第2話

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「……………………」  西側の門の周辺には、かなりの数の人が集まっていた。その中心で、魔道士たちが生き残りの兵士から事情を聞いているらしかった。傷を負った兵士は、憔悴して泣き叫ぶように魔道士に訴えていた。  絶望的な戦いだった。  先輩が死んでしまった。  体が水でできた化け物を相手に、先輩は一歩も引かず幾度も幾度も魔法を行使していた。  化け物があまりにも巨大すぎた。  先輩の決死の魔法も、化け物の体の一部分を凍らせるだけで、反撃を受けて先輩はやられてしまった。  手傷を負った魔物はそのまま帰っていった。先輩が追い返したんだ。先輩がこの街を守ったんだ……。  兵士は泣き崩れ、魔道士がその肩を支えていた。そのすぐそばに、布を掛けられた死体があったことに気付いて、目を逸らす。すると目が合った。金髪の美人さん。昨日の男前の郵便屋さんだった。 「やあ、こんにちは。大変なことになってしまったね」  郵便屋の青年は、鎮痛そうに事態の渦中を見ていた。 「……厄介なものだ。町は安全かと思いきや、稀に外から襲い来る。きちんと警備しているとはいえ、たまに来られるととても警備がしにくいだろう」  力なく、笑ってしまう。まるで店長のような難しい口ぶり。なんて顔に似合わないんだろう。 「……うちの上司なんだ」  郵便屋さんは、くしゃりと申し訳なさそうに眉間に皺を寄せた。 「そうか――気が付かなくてすまない。キミの気も知らずに無思慮なことを」 「なんでさ。いいんだよ、仕方ない。町を守って戦って死んだんだ。私、部下としてあの人を誇りに思うよ。口うるさい酔っ払いだったけど、キメる時はキメる男なんだって最後に分かったから……」  酔っ払うたび、部下たちの家を回るのだ。いまどき安月給のアイス屋台なんかやってるのは訳ありばかり。ひとりひとりの家を回って、別に込み入った話をするわけでもなく飽きたら帰る。独り身の私たちは、もしかするとあの酔っぱらいに少しだけ元気づけられていたのかもしれない。  ああ、悔しいな。まるでなんだか良い人みたいじゃないか。死んだら良い人なんて笑えないにもほどがある。
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