第2話

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 渡り行列は、この国で生きている人々の姿そのものだろう。一歩町の外は危険だらけ。だから身を寄せ合って、みんなで助け合いながら次の町を目指す。それに対し、“死んでしまった人々の姿”がこれだ。 「……………………」  みな静かに見守っていた。布の下の店長の死体と、その前に立つ一人の男。目深にフードをかぶった、どこか宗教的な神妙な出で立ちだった。その手には大げさなくらいの装飾杖。誰とも会話せず、さっきから呪文のようなものを唱えながら儀式的な動作で幾度も祈りを重ねている。  埋葬士。見た感じ動作が厳粛で、恐らく地元の、信のおけるベテラン埋葬士なのだろう。 「あ……」  フードの奥の顔が一瞬見えて、知っている顔だと気付いた。髪の短い、気難しそうな男。以前、とあるお金持ちの婦人の埋葬に立ち会った際、話した事がある埋葬師だった。  布の上、おそらくは店長の胸のあたりに、宝石をひとつ置いた。魔石だ。透き通った青水晶。埋葬士によって発動(トリガー)の魔力を篭められたそれは、すぐさま輝きだし、強く光ったかと思うと魔法陣を形成していた。  店長の上で、国旗のように輝く。青い、複雑な文様を幾重にも折り重ねた、いっそ美しくさえある高度な術式だった。魔力の波濤、吹き上がる大気に周囲を青く照らす強い光。見物人たちの頬に青を照らしつけながら、しばし何かを浄化するように波打ち続けた。 「祈りを」  終盤に差し掛かったのか、黒いローブの埋葬士が、みんなに向けて声を発した。みんな手を組んで祈りを捧げる。私も祈った。ただ一心に、みんなして縋るような必死さで、店長がキチンと天に召されることを。  メル――。  店長の声に呼ばれた気がして、色抜けた青空を見上げ、私は一瞬の空白に見舞われた。 「………………………………」  誰もいない。ただ空を鳥が横切っていっただけだ。
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