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「……無事完了した。ご協力感謝する。あとのことは、魔道士に――」
青い魔法陣が、燃え尽きるように消滅する。埋葬士の仕事が完了したのだ。魔道士に引き継いだ埋葬師も、集った人々もみなざわざわと口々に話しながら解散したようだった。
私はぼぅっと、魔道士が店長の死体を袋に収容するのを見ていた。そして不意に、私はこの街に来て、仕事がなくて困り果てていた時に店長に拾われた日のことを思い出したのだ。
「あ……」
……たばこ臭いおじさんが、私の命の恩人だと思えた。
「あ、あの――っ!」
気が付けば魔道士に声を掛けていた。遺体が運び去られる寸前だった。紫コートの魔道士が、私の顔を見るなり怪訝そうな顔をする。
「何だ、どうした」
「その人、知り合いなんです。最後に顔を見ておこうかと思って……」
「ああ、そうか……」
一生懸命戦って死んだのだ。せめて顔くらい目に焼き付けておいてあげてもいいと思った。多少、うなされることになっても構いはしない。
しかし、魔道士たちの反応は煮え切らなかった。顔を見合わせて気まずそうにしている。
「……顔、見ちゃいけませんか」
「いや、いけないというわけではないんだが……しかし、」
何なんだろう。それほどまでに苦しそうな顔なんだろうか。少しだけ決心が揺らぎそうになった時、頷きあった魔道士が私に耳を寄せるように合図してきた。
「……はい?」
「いいから、耳。耳を」
しきりに周囲を気にしながら、言ってくる。何なんだろう。訳も分からず私は耳を寄せた。
「すまない、被害者の身内なのに。とても、言いにくいのだが……」
布で隠された店長のご遺体に目を向けながら、魔道士が耳打ちしてきた。そういえば、店長はこんなに小柄だったろうか。もしかして人違いなんじゃないかと逡巡した瞬間、
「首がないんだ」
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