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みんな重苦しい顔をした。言い出した子は、周囲の様子に悲しそうな、申し訳無さそうな顔をしている。みんな気持ちは分かるのだ。葬儀をしてあげようという気持ちも、生活が苦しいという気持ちも分かる。
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまって、何人かに見られる。私たちはなんて情けないのだろう。ここにいるほとんどが、たったのひとつしか魔法を使えない。それも大したスキルじゃない。身寄りも学力もなくて、本当に無力なのだ。
無力な人間に、世界は非情だ。だから誰かが言わなければならない。
「結構な大金よ。そんなの、出し合ってまかなえるもんじゃない」
「え……っ?」
私が前に出て、突きつける。葬儀をしようと言い出した子が、傷ついたように私を見た。
「みんな自分の生活がある。そんな大金払えないでしょう。あなただって、そうなんじゃない?」
「メル……!」
止めようとする者を、手で制する。別に私だって文句が言いたいんじゃない。
すう、と大きく息を吸い込む。
「――――店の資産があるでしょう。それはお店のものなんだから、店長の葬儀くらい使ってもいいんじゃない?」
「あ……っ」
皆が目を見開いた。言い出しっぺの子に安心させるように笑いかける。
「無理しないで。あなただって、そんな裕福じゃないでしょう?」
生活が苦しいのは皆同じだ。本当にみんな同じなんだ。思えば、私達はみんなあの酔っぱらいに養われていたようなもんなのかも知れない。
「残ったお金でお店のこれからを考えましょう。誰か、異論はある?」
「ないよ。それでいこう」
「お店の資産で、お世話になった店長の葬儀を」
みな少しだけ元気を取り戻していた。壊れかけた信頼が守られ、繋ぎ直されたように思えた。
地獄の底でも、喧嘩はしたくないものだ。
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