第3話

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「ああ、そうね。あんた、このまえ酷かったもんね」  あの日の出来事を回想する。現代の世の中には、『埋葬詐欺』と呼ばれる社会問題が蔓延っていたりする。かなり非人道な問題だ。事件になるたび大きな問題として取り上げられるが、しかし後を絶たないという面倒な話。私自身もまた、その埋葬詐欺という事件に出会ったことがある。  とあるお金持ちの、貴婦人の葬儀での出来事だった。彼女のご遺体を案じた遺族が、お高いお金を払って埋葬師を雇った。神具や神棚まで揃えた荘厳な埋葬だと思われたそれは、実際にはやっすいパイナップル木材だらけの話にもならない安物だと判明したり、埋葬師が無免許でまったく埋葬になっていなかったり、ということが露見してしまった。  形だけの埋葬。まるで効果を伴わないそれを、私たちは『埋葬詐欺』と呼んで忌み嫌っている。ご遺体であるご婦人が魔物と成って化けてしまうのではという場面で、詐欺師のエセ埋葬を看破し、激怒してブン殴った人物こそは、目の前の、黒いローブの埋葬師だった。  まったく男前である。鍛え上げた右ストレートが突き刺さり、名探偵のように真実を暴く姿は歌劇のようでさえあった。……そう、本当に、その場面“まで”は。  魔法とは残酷なものだ。それは理不尽な武力であり。例えば、一心に鍛え上げた埋葬師の腕力でさえも、呪文一つでなかったことにしてしまう。埋葬師の拳打も憤怒も、詐欺師の使う低級な攻撃魔法の前ではまったくの無力だとあしらわれてしまったのだ。  本当に、ひどい出来事だった。嘘の埋葬を施した詐欺師が、正規の埋葬師を低レベルな基礎・攻撃魔法でボロ雑巾に変えるのだ。あの場面を見た時、私は泣きそうにすらなってしまった。  もっとも、それらは、目の前の埋葬師がやり返さなかったのがすべて悪い。あんな詐欺師、攻撃魔法でボロクソに叩いてしまえばよかったっていうのに。 「……あの時、あんたはやり返さなかった。それが埋葬師の挟持ってやつ?」  私に指摘されると、男は遠い目をしてごまかした。
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