4人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「…………さてな。所詮は死体を相手にするしかない能なしだ。生者の相手をするのは、慣れていなかったのかもしれないな」
適当な言葉で誤魔化す男。本当、男はバカだ。
「ま、私はいいと思うよ。やり返さずにただ殴られるだけ。どんなに悔しくとも我慢する。うん、悪くないよ」
褒めたつもりで、男を叩く。けれど反応は微妙だった。
「……そうだな。本当に、そんな美談だったらよかったのだがな」
「なんですって?」
「いやなんでも。ではな。気晴らしを忘れるなよ。身近な人が亡くなると、調子を崩さないほうがおかしい」
人の死に慣れた埋葬師は、そんな助言なんだか何だか分からない言葉を遺して去っていった。そんな男が、固そうな黒いブーツをはいていたことに今更気付いた。
「……儲かるのかな。埋葬師」
いつか転職の機会があれば、あの男を頼ろう。
最初のコメントを投稿しよう!