第3話

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「…………さてな。所詮は死体を相手にするしかない能なしだ。生者の相手をするのは、慣れていなかったのかもしれないな」  適当な言葉で誤魔化す男。本当、男はバカだ。 「ま、私はいいと思うよ。やり返さずにただ殴られるだけ。どんなに悔しくとも我慢する。うん、悪くないよ」  褒めたつもりで、男を叩く。けれど反応は微妙だった。 「……そうだな。本当に、そんな美談だったらよかったのだがな」 「なんですって?」 「いやなんでも。ではな。気晴らしを忘れるなよ。身近な人が亡くなると、調子を崩さないほうがおかしい」  人の死に慣れた埋葬師は、そんな助言なんだか何だか分からない言葉を遺して去っていった。そんな男が、固そうな黒いブーツをはいていたことに今更気付いた。 「……儲かるのかな。埋葬師」  いつか転職の機会があれば、あの男を頼ろう。
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