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駆けていく。家に帰るなら曲がる所を、彼はまっすぐ行く。
あまり人気がなくなって、この辺りは少し涼しい。竹林が右手に続く。坂道を登っていく。
やがて、見えてきた。目的地に着くと、彼は息を切らして木々の日陰の中に腰を下ろした。ランドセルを下ろして、地面に置く。かぱっと開くと、中から秘密を取り出した。
紙にくるまれたそれは、パンである。
今日の給食のパンだ。
だって、食べきれないんだ。どうしてみんな、あんなにたくさん食べられるのだろう。いつも、途中で苦しくなってしまうんだ。それなのに、全部食べないと駄目だって言うんだ。
だから、彼はこっそり、誰にもばれないようにそれを机の中に隠す。そして、ランドセルに詰めて持ってくるのだ。
少年がパンを手にしばらく待っていると、ほどなくやってきた。草を踏んで茂みから出てきたのは犬である。ここに住みついている野良犬らしかった。少年はいつも、ここで犬に会うのだ。
ん、とパンを犬の方に放ってやる。犬は慣れた様子でゆらゆらと控えめに尻尾を振ってパンを食んだ。
少年はそれを見て、少し微笑む。そうだな、お前だけが、僕の秘密を知っているんだ。二人だけの秘密だ。
ひんやりと吹き抜ける風が、走って火照った身体に心地よい。
等間隔に立ち並ぶ、規則正しい形の石。そのそばの木陰。そこに、パンを食む犬と、しゃがんでそれを眺める少年。傍らに転がる黒のランドセル。
あるいはもしかしたら、ここに眠る死者たちもまた、少年の秘密を知っているのかもしれない。だとしても、彼らもまたきっとこの秘密を守ってくれるだろう。
少年が、日々墓場まで持って行く秘密を。
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