トイレの個室

　昼飯の後、急激に腹が痛くなり、トイレに駆け込んだ。
　個室にこもり、用を足していると、ふいにノックの音が響いた。
　学校のトイレは、使用していない時は中が見えるタイプのものなので、戸が閉まっていれば中に誰かいるに決まっている。
　ノックなんかしなくても、使用中なのは見ての通りだ。なのに誰かがずっとノックを繰り返す。
　…学校で個室にこもってる奴がいると、それだけでからかってやろうって思う奴がいるんだよな。多分そういう奴が、承知でノックをし続けているんだろう。
　無視だ、無視。音なんて聞こえない。
　どんなにノックが激しくても、むしろ扉を殴ってるとしか思えない強さでも、無視…扉？
　相変わらずノックの音は続いている。だがそこは扉ではない。壁だ。そして壁の向こうは三階建ての校舎の外だ。
　…腹痛も収まったし、早いトコ個室を後にしよう。もちろん今後はこの個室には入らない。
　ああ、そうだ。それともう一つ。
　出た後、うっかり窓外を見たりしない。それを何より心がけてさっさとトイレを離れよう。

トイレの個室…完