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今日の空も明るく晴れた。昨日の空も明るく晴れていた。その前も明るく晴れていた。その前も明るく晴れていた。その前は覚えてないけどたぶん明るく晴れていた。
だからきっと明日も明るく晴れるだろう。
「母さんね、本当は旅人になりたかったの」
その中でも一際明るく晴れた空の日、母さんはそう言い残して永遠の旅路に出た。
父は私がお腹にいるときに事故で亡くなっている。それから母さんは再婚することもなく、母一人子一人で何とか生きてきた。そうして残された私は、決して多くはない母さんの持ち物の整理を始めたのだった。
母の好きだった、とうの昔に亡くなっている作家の小説を手にしたときだ。カサリ、音を立てて一枚の茶封筒が出てきた。…父さんからのラブレターだったりして。にしては、どうも妙な厚みだ。
少しの好奇心から封筒を覗くと、
「なにこれ」
中に入っていたのは手描きのなにかがビリビリに破けたものだった。無駄なものは直ぐに処分してしまうような母さんだったのに、こんな物をとっておくなんてコレは一体何なのか。母さんには悪いけど、正直これは興味深い。
それから私は、暇さえあればそのバラバラになった紙をテープで留めていった。
出来上がったのは一枚の地図。
旅人になりたかったのと言った母さん。この地図は母さんが破いたの?それとも破られたの?どうして大事に取っておいたの?誰が描いたの?母さん?それとも誰か別の人?
様々な疑問と、何故か母さんとの優しい記憶が次から次へと溢れてくる。ハンドクリームを塗っても塗ってもあかぎれの消えない手が私の髪を撫でる感触。コトコトと鰹だしの匂いがしてくる台所に立つ背中。私の名前を宝物のように呼ぶ声。母さん、母さん。会いたいよ。
だから旅に出た。
母さんの面影をさがして。
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